チャイナドレスの女


    三年前の沖縄旅行での出会いだった。         
   コバルトブルーの広がる海で、カラフルな熱帯魚
   を眺めながら泳いだ。
   さんご礁の海は、どこまでも透明だった。
   その時は ”ザ・ブセナテラス”に泊まった。
   サミット会場にもなったリゾートホテルです。
   ロビーはオープンエアーで、海から常に
   心地良い風が流れていた。
   夕方、ソプラノサックスの音が聞こえてきた。
   プールサイドに奏者が一人、夕陽の海を背景に
   スローナンバーを奏でていた。
   ここは、光と風と音色がおりなす空間だった。    


    昼は一日中海の中であった。
   昼間の熱気がまだ残る夜、外にあるホテルのバーで過ごした。
   「夜来香」という半地下の薄暗い、少し怪しげな雰囲気の店だった。
   階段を下りて中に入ると、客は私一人だけ、ホステスさんがやはり一人。
   色白で、目元がパッチリしていた。
   三晩、一人で通った。いつも二時間近く過ごしたのに、最後まで
   私以外の誰も来なかった。
   「今晩でお別れです」。「明日は朝からホテルの売店におります。
   良かったらどうぞ」と、彼女は私が御馳走したカクテルを飲みながら答えた。
   翌朝、お土産を買うつもりで売店に行くと、「夜来香」の女性が見当たり
   ません。そこで働いている人に尋ねたら「−−さんは、今日お休みです」

    今ではその方の名前も、三日間どんな内容の話をしたのかも
   すっかり忘れた。
   でもチャイナドレスのスリットから、ちらちら見えるスラリとした足元は
   それとなく”艶”を感じさせた。
   昼の”姿”を見なかった方がかえってよかった、そんな
   思いが今はある。
   

   
   沖縄といえば、”青い海”とその”女性”が
   脳裏に浮かぶ。

                         
                             2002.3.10




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