結婚のキューピット
昼の海遊びに軽い疲労を覚えた夏の夜、私の部屋の電話が鳴った。
声の向こうは五年ぶりの東京の女性だった。
「どうしているの」 「そう、まだ一人なの」
「次の週、函館に帰るから良い人を紹介するわ」
彼女の家でその女性と会った。来年卒業する女子大生だった。
なにを話しても、ただニコニコしているだけ。
その夜、彼女から電話がかかってきた。「彼方が気に入ったみたい。
次会う時はプロポーズしたら。OKするはずだから」
私は決めかねていたが「お任せします」と答えた。
その人が今の妻である。
結婚してある時、ちょとしたいさかいがあった。「お前がいいというから
OKしたのだよ。」
「気に入ったようだから考えてあげて」とお姉さんから言われ、「次に会ったとき
ユウスイさんの言ったことを、ただハイハイと返事すれば良いのよ。」
「そのとおりしたら、いつのまにか結婚のレールがしかれていた。」
別な機会に彼女に尋ねた。「妻はOKしていない」と言っていたけれども。
「あら、私そんな風につたえたかしら」
大学に入った年の夏、母校の西高を訪ねた。ちょうど文化祭で賑わっていた。
ある教室の展示を見ようとしたら、入り口で「いつお帰りになったの」
透きとおるような声が聞こえた。髪をうしろにきちんと束ね、クリスタルのような
輝く目をした女生徒だった。
「"さおり"です]
名前は聞いたことがあった。
中学時代、周りが「一年生にとびきり可愛い子がいる」と騒いでいたからだった。
心の中で「この人がうわさの・・・・・・・」
高校の屋上で函館の町を眺めながら、時間の経つのが忘れるほど話し込んだ。
「小さい頃からバレーを続けていました。これから外国語を勉強したい」
「東京の大学に入ったら、ぜひ京都に遊びにきてください。」
秋になり、彼女から折り目正しい文章の手紙が届いた。
港まつりで撮ったらしい着物姿の写真もそえられてあった。
その後、彼女は大阪で開かれた万博のコンパニオン(カナダ館)になった。
しかし会う機会はなかった。
そして、どちらも函館に戻った。
5月、満開の函館公園の夜桜で再会した。
最初会った時の可憐な少女の面影は失せ、完成された大人の女になっていた。
彼女の家でのクリスマスパーティーで会った一年後、「私は東京に行きます」
「お幸せに・・・」
その五年後、さおりさんは私達の結婚の”キューピット”になった。
2002.4.6
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