再 会
その衝撃的な出会いは、ホテルでのパーティーだった。
北国の短い夏の終わる頃であった。
コップを片手に、着飾った男女が談笑していた。
会場内で知り合いの谷口君に会った。
「陳君、ちょうどよかった。僕の姪を紹介するよ」
「はじめまして明子です」私は目をみはった。
こんなに”似ている女”がいるのだろうか。
彼女は昨春東京の音大を卒業して、市内でピアノの
教師をしているとのことだった。
「来月ピアノの発表会があるの。何枚か切符を引き受けて
くださらない」
小麦色の肌。くりんとした大きな瞳。均整の取れた体。
そしてちょっとはにかんだ様な舌足らずの言い方まで、あの人
にそっくりだった。
「私の妻もピアノをしています。何枚でもどうぞ」
30年前の9月、友人の結婚式であの人に出会った。
東京の人だった。お互いに惹かれるものを感じた。
離れていたが手紙や電話、そして何度かのデイト、心弾む
毎日だった。その一方で、このような日々が何時まで続くのかという
不安が隣り合わせでもあった。
木枯しが吹くころ、将来の設計を語りあうまでになった。
会ってわずか三ヵ月あまり、破局は突然訪れた。
クリスマスプレゼントの赤珊瑚のネックレスが、封も切られずに
送り返されてきた。
「私のことは、もう忘れてください」
そんな短いメッセージが添えられてあった。
原因はわからなかった。
明子さんとは、発表会が縁で一緒に音楽会に行ったり、ちょっと
お洒落なレストランで2,3回食事をした。
会うたびに、私が30年前の”私”で接しているのに気づいた
年が変わって、断られるのを承知で「春の海を見に行かない」
と誘った。
日本海をドライブした。早春の海の輝きが、まぶしかった。
このまま太陽が沈まないで欲しいと思った。
空が赤く染まってきた。
だれもいない砂浜で夕陽をながめた。、彼女は突然靴を脱ぎ捨てて
渚の方へ駆け出していった。
30年前伊豆の浜辺で、あの人も・・・・・・・
その時のセピア色の光景と二重写しになった。
「結婚します。ジュンブライドなのよ。相手は高校時代の
同級生。友達のような感じだけど、一緒にいるととても楽しいのよ」
「実は・・・・・・」と言いかけて、私は言葉を失った。
「数十年後私の彼は、きっと彼方のような感じのオジサマになると思うわ」
私の再び蘇った”青春”は、ここで終わった。
2002.6.30
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