スリップドレスの女
その年、私は精神的にも肉体的にも落ち込んでいた。
予告なしに訪れる胃の痛み。それを抑えるための
痛み止めの注射。モルヒネなみの鎮痛薬も次第に
効かなくなった。
一週間にわたる検査入院でも異常なし。
そして無気力、無関心、無感動のないないずくし。
なにを食べても美味しくないし、なにをしてもケダルイ。
男性も50歳を越えると更年期障害になるのだろうか。
年の暮れは暗澹たる気持ちであった。
仲間の恒例の忘年会があった。
その年は体の不調から、夜の街に出たのはわずか二回。
「うーん出たくないなー」「でも気分直しに頑張って行くか。」
本町の洒落た小料理屋で宴が始まった。
三人のちょっと華やいだ感じの女性が「コンバンワ」と現れた。
今日は、コンパニオンではないのかな?
その中にロングヘアーの女性がいた。
「この子はイケルナ」
うまい具合に私の前の席に座った。
小一時間経った頃、その女は「暑いわね」と着ていた
黒のジャケットを脱いだ。
中は、黒いスリップドレスだった。
二本の細い紐が肩から掛かっていた。
背中への肌が目に入った。
色白の肌が、室内の熱気で薄いピンク色に染まっていた。
「なんと大胆な・・・」
私は目のやりばに困ったが、視線はさりげなく彼女の姿を
追っていた。
やがて、私の中に眠っていた「何か」が呼び起こされた。
青春時代の記憶が戻ってきた。熱いエネルギーが湧いて
くる気がした。
「暗」から「明」に場面が変った。
「よかったらメールをください」
数日後、彼女から絵文字の半分入った元気なメールが届いた。
中味は、お客さんに儀礼的に出しているような内容だった。
でもウキウキした気分になった。
「病気が治った?」・・・・そんな感じがした。
イメージが薄れかけた半月後、彼女の勤めているスナックにでかけた。
一回目に出会った時と同じような気持ちになった。
それから月に二、三回、口実をみつけては、そのスナックに
通うようになった。
「この頃、随分夜出るようになったわね。お気に入りの女性に
出会ったの」
「ばれたかな。」 でもなにくわぬふりして
「うん、ーーの店のーー子さんも可愛いしーーのスナックの
ーーさんも良いなー」
と妻にはカモフラァージュした。
お目当ては、彼女だけなのだが。
その店の名前は「シリウス」。
彼女の名前は「ミツコ」。年令は不詳。
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