カラスの賢さ

 

「レールに小石を並べて電車を止めた」「危害を加えた人間を覚えていた」
−カラスの賢さを示す逸話には事欠かない。そのカラスが、こんどは針金を
曲げて道具を作り、筒の中のえさをつり上げることが、英オックスフォード大
の研究で確認された。霊長類並みの知恵だという。カラス恐るべしー。

 

 

実験では、雌のニューカレドニアカラス「べティ」の前にまっすぐな針金を
置き、近くにフック付きのえさ容器を入れた筒を持ってきたところ、ベティが
針金の端を足で固定しながら曲げて道具を作り、えさ容器をつり上げた。
ニューカレドニアカラスは道具を使ってえさを採ることで知られているが、
ベティがやったのは自ら道具を作るという 離れ業。
「カラスはどれほど賢いか」などの著作がある唐沢孝一埼玉大学講師
(鳥類生態学)も、この研究報告から、カラスの知能の高さを再認識したという。
「カラスは高度な知能が指摘されてきたが、人工物で道具を作れる動物は
オランウータンやチンパンジーなど霊長類の中でも高度な知能を持つものだけで、
カラスがそれらに匹敵する知能があることになる」

     遊びを開発

 唐沢さんは、カラスの能力で特徴的なのは人間と同じような“遊び”の感覚が
あることだという。「目的もなく電線の巻いてあるテープをはがしたり、空中で
ゴルフボールや小枝を落として奪い合うラグビーのような行動で仲間と遊ぶなど、
無駄な行動を楽しめることが知的動物であることを証明している」と指摘する。
カラスがくちばしでレールに小石を並べる行為も、電車が石をはじくのが面白くて
始めた“遊び”とも言われる。 
ただ、「無駄」なような行動も、もともとは意味のあるものだった。
「ラグビー行為は、オオタカなどの猛禽(もうきん)類に襲われた場合に備えて、
先を見据えたチームプレーの訓練という見方もある。それを遊びのような行動にする
こと自体が、高度な知的行為です」と分析する

    100カ所記憶

 また、食べきれない食料を百カ所以上の場所に隠しても、場所を正確に記憶している。
さらに賞味期限に合わせて、食べに戻る貯食行為は「人間以上の記憶力を示している。
瞬時に記憶する脳の仕組みがあると推測されるが、詳細はナゾというしかない。」

宇都宮大学農学部機能形態学研究室ではカラスの脳を解剖、その知能を数値的に証明
している。 同研究室の杉田昭栄教授(動物神経解剖学)によると、一立方センチ
メートル当たりの神経細胞数は、ニワトリ約三千三百個に対して、カラスは一万九千
五百個と約六倍の密度で鳥類では傑出している。さらに、カラスの平均脳重量十グラムに
二億五千万個の神経細胞があり、人間の脳の重さ千三百グラムに換算すると、人間
約百五十億個の倍以上の約三百二十五億個になる。
杉田教授は「カラスの脳の質は人間に勝るとも劣らない」と潜在能力を評価する。
なぜ鳥類の中でカラスが突出して
賢くなったのか。唐沢さんは説明する。「カラスは猛禽類のようにつめなどの武器がなく、
水に潜れるわけでもない特徴のない鳥だ。生き残るためには頭脳に頼るしかなかったのが
高知能化の理由だと思う。それに、お盆や正月で生ごみの量が減るなどえさが安定供給
されない都市環境での生存には貯食などの学習応用能力が必要になる。生来の頭の良さに
加えて、都市生活の厳しさが知能をどんどん高度化させている」

 そんなカラスと人はどうつき合っていけばいいか。唐沢さんはいう。「人間は身勝手で、
トキのように数が減れば大事にする。人間の節操のない生活でどんどん生ごみの量が増え
カラス繁殖を促している。ごみ排出量が減ればカラスの数も減り、三
,四十年前のカラスと
人間の良い関係が復活するのでは」
        2002.8.17  北海道新聞


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